永易至文『にじ色ライフプランニング入門』を読む

Gay Life

ライフプラン・ライフプランニングに関する本はたくさんありますが、この本は私が知る限り、唯一ゲイのライフプランニングを扱った本です。2012年、にじ色ライフプランニング情報センター発行、太郎次郎社エディタス発売です。

もし「ゲイの学校」があったら、僕はこの本を夏休みの課題図書にしたいです。あるいは「ゲイの成人式」があったら、僕はこの本をお祝いに配りたいです。それぐらい、この本はゲイの必読図書だと思います。

僕自身、この本を初めて読んだ2014年、この本をきっかけにして、自分のライフプランを真剣に考えるようになりました。まずは本が勧めるように、キャッシュフロー表を初めて作成しました。また、その時に合わせて初めて自分の資産の見える化をし、それから半年おきに資産表の更新をするようになりました。この資産表を作ってから、劇的に貯蓄のスピードが上がったんです。

そんな感じで、僕自身がとても影響を受けた本ですので、ここでご紹介したいと思います。ゲイとして生きるみなさんに、ぜひ一読することをお勧めしたい本です。

幅広いライフイベント

この本が素晴らしいのは、まず幅広いライフイベントを取り上げている点です。大きく4つのテーマを取り上げています。

  • お金(貯蓄、年金、社会保険、税金)
  • 住まい、保険、病気
  • 親(介護、看取り、相続)
  • 自身の老後

どれも30代~40代になると、とたんに自分事ととして気になる事柄です。そして、普段それぞれ気になっていることではありつつ、こうやって並べてもらうと、人が一人生きるに伴って避けられないライフイベントってたくさんあるのだなーと、改めて感じさせられます。

このうち、たとえばお金にまつわることであれば、貯蓄や投資に関する雑誌や本がたくさんありますし、住まいや病気に関してもまたしかり。個別のイベントについての情報はあふれていて、それぞれ役に立つものではありますが、けど、それは自分のトータルの人生についての参考にはならないんですよね。たとえば投資に関する情報は、投資のハウツーや理論は教えてくれても、自分の人生にとって投資がどう意味を持つかは教えてくれないんです。当たり前のことですが、それぞれのイベントの意味は、自分の人生の側から引き寄せて考えないと、見えてこない。そして、普段自分の人生を広く考えることはなかなかないし、むしろ意図的に避けたくなることでもあるのですが、この本のように幅広いライフイベントを見渡すことで、なんだろう、冷静に、客観的に向き合えるような気がするのです。そのきっかけを与えてくれるという点で、この本はとても役立ちます。

ゲイに向けた明確な指針とアドバイス

もちろんそれらのライフイベントは、ゲイでない人たちにも関わりがあるもので、そのいくつかはゲイであろうがなかろうが同じように対応すべきものです。ただ一方で、ゲイであるために少し異なる対応をしなければいけないものは確かにあり、そこに関してこの本はかなりはっきりと指針を出しています。たとえば各種保険に関しては、こんな具体的なアドバイスがされています。

*配偶者や子どもの浮揚を考える必要がない同性愛者は、生命保険に入るニーズの有無から検討すべし。

*公的な健康保険があれば、医療保険に入るニーズは低い。保険で備えるより、当座の医療費と3か月の家賃・生活費に充てるために100万円の貯金は持っておこう。安心料に、安い掛捨ての共済(全労済や都民共済など)は考慮してもよいかも。

*老後資金は、自分の公的年金の受給状況を確認することが第一。保険商品に老後の貯蓄機能を期待することは難しい。多角的な老後資金対策を。

pp.103-104

もちろんいろんな考え方があり、異なるアドバイスもありうるとは思いますが、ともあれたくさん考えるべきことがある中で、「ゲイであることで」考えなくて済むことがあるのであれば、それはありがたいこと。明確な指針とアドバイスはすごく助かるなと思いました。

仕事は?

この本は広くライフイベントを取り上げている一方で、仕事というものに関する記述がまったくないのも面白いと思いました。多くの人にとって、就職したり、起業したり、転職したり、退職することは、人生で一番大きなイベントだと思うんですよね。だって、大人になれば、自分の時間の1/3は仕事に費やすわけですから。そして、仕事をするにあたり、ゲイであるということはまた、特別な対応や選択や覚悟が必要になるという部分があると、僕は思います。

そしてまた、どういう仕事を選択するか、またいつ退職をするかということは、直接に収入に関わりますので、ライフプランニングにも大きく影響します。たとえば今FIREという生き方が注目されていて、おそらくファイナンシャルプランナーに、FIREの現実性を相談する人も多いのではないかと思います。

もちろんどういう仕事をするか、どういう働き方をして、いつまで働くのかは、あまりにもパーソナルで、傾向や統計を語るのは難しいのかなとも思います。ただ、これほど幅広くライフイベントを扱って、人生を俯瞰する機会を与えてくれるのだから、仕事に関する記述が少しあってもよいのかな、読んでみたかったな、と思いました。

まとめ

ゲイにとって、10代や20代は、ゲイであることやゲイとして生きることをどう受け入れるかに向き合う時期だと思います。そして、悩みながらもゲイである自分を当たり前に受け入れるようになった30代からは、ゲイとしての人生を具体的にどうプランニングするかに悩むことになります。狭い世界で、ピッタリ目指すべきロールモデルを見つけることも簡単ではありません。僕にとっては、この本は初めてそんな悩みに指針を与えてくれた本でした。40代を前にして、この本と出会えてラッキーだったな、と思います。

ゲイあるあるやエピソードも含めながら、読みやすく書かれていて、2日もあれば目を通せてしまいますので、ゲイのみなさんにはぜひ一度目を通すことをお勧めしたいです。

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